賃借人がいる物件を売る|オーナーチェンジの実務と注意点
相続したアパートや貸家を、入居者がいるまま売る方法をオーナーチェンジといいます。価格の決まり方が実需向けと違うこと、敷金と契約が買主に引き継がれること、入居者への通知、引き継ぐ書類、そして空き家の特例が使えなくなる点まで整理しました。
約5分で読めます・2026-09-10 公開
この記事の要点
- 入居者がいるまま売ることをオーナーチェンジといいます。買主は投資家で、価格は家賃収入と利回りから決まります。
- 賃貸借契約と敷金の返還義務は、原則としてそのまま買主に引き継がれます。預かった敷金は売買代金から精算するのが一般的です。
- 賃貸人が変わったことを入居者に対抗するには、所有権移転登記が必要です。登記後に速やかに通知します。
- 相続した実家を人に貸すと、空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。貸すか売るかは先に決めてください。
- 賃貸借契約書、入居者一覧、管理委託契約、修繕履歴などの書類が引き継ぎに必要です。相続後すぐに管理会社から取り寄せてください。
相続したアパートや貸家を手放したい。でも入居者がいる。この場合、入居者に出ていってもらう必要はありません。入居者と賃貸借契約をそのまま引き継ぐ形で売却できます。これをオーナーチェンジといいます。
相続直後にやることは賃貸不動産を相続したらにまとめています。ここでは、売ると決めたあとの実務を扱います。
価格の決まり方が、自宅の売却とは違います#
自宅を売るときの買主は「そこに住みたい人」です。オーナーチェンジの買主は「家賃収入がほしい人」なので、価格の考え方がまったく違います。
| 実需向け(空室にして売る) | オーナーチェンジ | |
|---|---|---|
| 買主 | そこに住む人 | 投資家・不動産会社 |
| 価格の根拠 | 周辺の成約事例 | 年間家賃収入と期待利回り |
| 価格の傾向 | 高くなりやすい | 低くなりやすい |
| 売却までの手間 | 退去交渉が必要 | そのまま売れる |
ざっくり言えば「年間の家賃収入 ÷ 期待利回り」が価格の目安です。年間家賃120万円、期待利回り8%なら1,500万円という具合です。利回りは地域・築年・構造で変わります。
契約と敷金は、買主に引き継がれます#
所有権が移ると、賃貸人としての立場もそのまま買主に移ります。入居者の同意は要りません。ここで実務上いちばん問題になるのが敷金です。
- 預かった敷金の返還義務も買主に引き継がれます
- そのため、預かっている敷金相当額を売買代金から差し引いて精算するのが一般的です
- 精算を忘れると、売主が受け取った敷金を買主が返すことになり、後から争いになります
- 敷金の額は入居者ごとに一覧化して、契約書に明記してください
前家賃を受け取っている場合も同様に、引き渡し日で日割り精算します。固定資産税・都市計画税も同じく日割りで精算するのが慣行です。
入居者への通知#
賃貸人が変わったことを入居者に主張するには、所有権移転の登記が必要です。登記が済んでから、速やかに通知します。
- 新しい賃貸人の名前と連絡先
- 家賃の振込先が変わること(いつ分から変わるかを明記)
- 管理会社が変わる場合は、その連絡先と緊急時の窓口
- 契約内容そのものは変わらないこと(不安を与えないために大切です)
引き継ぐ書類#
買主は「いくら入ってくるか」「いつ壊れそうか」を見て買います。書類がそろっているほど、価格も交渉も有利になります。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 賃貸借契約書 | 入居者全員分。更新の記録も含めて |
| 入居者一覧 | 部屋番号、家賃、敷金、契約期間、滞納の有無をまとめた表 |
| 管理委託契約書 | 管理会社との契約内容と、解約の条件 |
| 修繕履歴・見積書 | 屋根、外壁、給排水設備などの工事記録 |
| 設備の保証書 | 給湯器、エアコン、エレベーターなど |
| 法定点検の記録 | 消防設備点検、貯水槽、建築設備の定期報告など |
| 固定資産税の納税通知書 | 税額と精算のため |
相続した物件だと、これらがどこにあるか分からないことがよくあります。管理会社に依頼すれば再発行や写しの提供を受けられることが多いので、相続が起きたら早めに動いてください。
税金で気をつけること#
空き家の特例は使えません
いちばん大きな落とし穴がこれです。空き家の3,000万円特別控除は、相続してから売るまで貸付用に使っていないことが要件です。
- 相続した実家を「空き家にしておくのはもったいない」と貸すと、特例は使えなくなります
- 短期間でも、駐車場として貸しても同じです
- 貸すか売るかは、相続後すぐに方針を決めてください
もともと賃貸用だった物件(アパートなど)は、そもそもこの特例の対象外です。代わりに取得費加算の特例が使えないかを検討してください。
建物には消費税がかかることがあります
土地の譲渡は非課税ですが、建物の譲渡は消費税の課税対象です。個人でも、賃貸事業の規模によっては課税事業者になっていることがあります。
- 課税事業者なら、建物部分の売却に消費税がかかります
- 土地と建物の内訳をどう決めるかで税額が変わるため、契約書に明記します
- 判断が難しいところなので、契約前に税理士に確認してください
減価償却と取得費
賃貸に使っていた建物は、これまで減価償却で費用にしてきた分だけ取得費が減っています。相続で引き継いだ場合、亡くなった方の償却も引き継ぎます。
過去の確定申告書と青色申告決算書に、未償却残高が載っています。取得費が分からないときと違い、賃貸物件は記録が残っていることが多いので、まず申告書の控えを探してください。
売るまでの流れ#
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 遺産分割を決め、相続登記で名義を変える |
| 2 | 賃貸借契約書と入居者一覧、修繕履歴をそろえる |
| 3 | 収益物件を扱う不動産会社に査定を依頼する(複数社) |
| 4 | 空室にして売る場合との比較を行う |
| 5 | 売買契約。敷金・前家賃・固定資産税の精算を明記する |
| 6 | 決済・引き渡し、所有権移転登記 |
| 7 | 入居者へ通知。管理会社の引き継ぎ |
| 8 | 翌年、確定申告(譲渡所得と、その年までの不動産所得) |
名義変更までの段取りは相続した不動産を売るまでの段取りに、税額の計算は譲渡所得の計算と税率にまとめています。
賃貸物件を持っているなら、管理会社・入居状況・書類の場所を書き残してください。家族が引き継ぐときにいちばん困るところです。
不動産の情報を書き残すまとめ#
- 入居者がいても売れます。価格は家賃収入と利回りで決まります
- 敷金の精算を忘れずに。売買契約書に金額を明記してください
- 登記のあと、入居者に振込先の変更を通知します
- 実家を少しでも貸すと、空き家の特例が使えなくなります
- 書類がそろっているほど価格が上がります。相続後すぐに管理会社から集めてください
よくある質問
- Q. 入居者の同意なしに売ってもよいのですか?
- 問題ありません。賃貸人の地位は所有権とともに移るため、入居者の承諾は不要です。ただし所有権移転登記を済ませたうえで、速やかに通知する必要があります。
- Q. 入居者に出ていってもらってから売ったほうが高く売れますか?
- 住宅需要の高い立地なら高くなることがあります。ただし、借主に退去を求めるには正当事由が必要で、立退料の支払いも見込まなければなりません。両方の手取りを試算して比べてください。
- Q. 滞納している入居者がいます。売れますか?
- 売れます。ただし価格に響きますし、滞納分の債権をどちらが引き継ぐかを契約で決める必要があります。隠さずに開示してください。
- Q. 相続した実家を一時的に貸してから売る予定です。問題ありますか?
- 空き家の3,000万円特別控除が使えなくなります。短期間でも、駐車場としての利用でも同じです。特例を使いたいなら、貸さずに売ってください。
- Q. 売った年の家賃収入は、どう申告しますか?
- 引き渡しまでの家賃は不動産所得として、売却益は譲渡所得として、それぞれ翌年の確定申告で申告します。所得の種類が分かれる点に注意してください。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務に関する助言ではありません。 制度は改正されることがあります。実際のご判断にあたっては、国税庁の最新情報をご確認いただくか、 税理士等の専門家にご相談ください。