賃貸不動産(アパート)を相続したら|家賃の帰属・確定申告・引き継ぎ手続き
アパートや駐車場を相続したときにやることを解説します。遺産分割前の家賃は誰のものか、青色申告の承認申請の期限、減価償却の引き継ぎ、敷金の扱い、賃借人や管理会社への通知、そして貸家建付地の評価減と小規模宅地等の特例まで。
約6分で読めます・2026-09-06 公開
この記事の要点
- 遺産分割が終わるまでの家賃は、各相続人が法定相続分に応じて取得します。
- 青色申告は引き継がれないため、相続人は青色申告承認申請書を出し直します。期限は亡くなった日で変わり、1月1日から8月31日までなら死亡の日から4か月以内です。
- 敷金の返還義務も引き継ぎ、相続税では債務控除の対象になります。
- 貸家建付地は「自用地評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)」で評価され、借家権割合は全国一律30%です。
- 貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例は200㎡まで50%減額ですが、相続開始前3年以内に始めた貸付は原則として対象外です。
アパート、駐車場、貸店舗。収益不動産の相続は、自宅の相続とはやることがまったく違います。
事業が止まらないように引き継ぐ必要があり、しかも期限のある税務手続きが複数あります。この記事では、やることを順に整理します。
すぐにやること#
- 管理会社に連絡する — 賃料の振込先、緊急対応の窓口を確認
- 賃借人に通知する — 貸主が変わったこと、賃料の振込先
- 火災保険の名義を確認する — 契約者が亡くなると失効するおそれがあります
- 借入がある場合は金融機関に連絡 — 団体信用生命保険の有無を確認
- 賃料の入金先口座を確保する — 故人名義の口座は凍結されます
遺産分割前の家賃は誰のものか#
実務でよく問題になる論点です。結論から言うと、
つまり、
- 相続開始日までの賃料 → 被相続人の所得(準確定申告の対象)
- 相続開始日から遺産分割までの賃料 → 各相続人が法定相続分で取得(各自の不動産所得)
- 遺産分割後の賃料 → 取得した相続人の所得
ただし、相続人全員の合意があれば、分割時にまとめて精算する扱いにすることもできます。実務ではこちらを選ぶことも多いので、遺産分割協議書に明記しておいてください。
期限のある税務手続き#
① 青色申告の承認申請(見落とし注意)
期限は、被相続人が亡くなった時期によって変わります。
| 死亡日 | 青色申告承認申請書の提出期限 |
|---|---|
| 1月1日〜8月31日 | 死亡の日から4か月以内 |
| 9月1日〜10月31日 | その年の12月31日まで |
| 11月1日〜12月31日 | 翌年の2月15日まで |
相続人がもともと青色申告をしていた場合は、この特例ではなく通常の期限になります。
準確定申告(4か月)と同じ時期に片づけるものとして覚えておくと、忘れにくくなります。
② 開業届・廃業届
- 被相続人について廃業届
- 相続人について開業届(事業を引き継ぐ場合)
③ 消費税
被相続人が消費税の課税事業者だった場合、相続人にも納税義務が生じることがあります(相続があった年の納税義務の特例)。テナント貸しや駐車場(施設利用に伴うもの)は課税対象です。
住宅の家賃は非課税なので、住宅賃貸だけなら影響は限定的です。インボイス登録も、被相続人の番号は引き継げないため、必要なら自分で登録します。
④ 減価償却の引き継ぎ
建物の取得価額と経過年数を引き継ぎます。中古資産を買ったときのような耐用年数の見積りはしません。
償却方法は、相続人が新たに取得したものとして、原則定額法になります。
敷金の扱い#
見落とされやすい論点です。
- 賃貸人の地位を引き継ぐと、敷金の返還義務も引き継ぎます
- 相続税の計算では、債務控除の対象になります(預り金であり、いずれ返す義務があるため)
- 実際に敷金相当の現金が引き継がれているかを確認してください。故人が使ってしまっていることもあります
相続税の評価と特例#
① 貸家建付地・貸家の評価減
| 対象 | 計算式 |
|---|---|
| 土地(貸家建付地) | 自用地評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合) |
| 建物(貸家) | 固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合 × 賃貸割合) |
借家権割合は全国一律30%です。詳しくは不動産の相続税評価をご覧ください。
賃貸割合は、課税時期に実際に貸している床面積の割合です。空室が多いと減額が小さくなります。ただし、一時的な空室は賃貸中として扱われる余地があります。
② 小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)
- 200㎡まで50%減額
- 相続税の申告期限まで、貸付事業を継続し、その宅地を所有していることが要件
- 相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地は、原則として対象外(事業的規模で貸付事業を行っていた場合を除く)
なお、自宅の特定居住用(330㎡・80%減)と貸付事業用を併用する場合、面積の調整計算が必要です。どちらを優先すると有利かは試算しないと分かりません。
引き継ぐか、手放すか#
賃貸経営は事業です。「相続したから続ける」ではなく、続けられるかを判断してください。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 入居率 | 空室が続いていないか。近隣の需給 |
| 築年数と修繕 | 大規模修繕の時期と費用。外壁・屋根・給排水 |
| 借入の残高と返済 | 団信で完済されたか。残っているなら返済比率 |
| 収支 | 固定資産税・保険・管理料・修繕費を引いた実質の手残り |
| 管理体制 | 自主管理なら、自分でできるか |
| 出口 | 売るとしたらいくらか。収益還元でどう評価されるか |
遠方に住んでいて、賃貸経営の経験もないという場合、無理に続けるより売却を検討するほうが合理的なことがあります。
共有で相続した場合#
賃貸物件を共有にすると、日々の判断が全部止まります。
- 賃料の減額、リフォーム、管理会社の変更 → 持分の過半数
- 建替え、売却、長期の賃貸借 → 全員の同意
- 確定申告も各自が持分に応じて行う
賃貸経営は判断の速さが収益を左右します。共有は避け、1人に集約して代償金で調整するのが基本です(不動産の分け方4つ)。
賃貸物件の所在地、借入、管理会社、賃借人の情報。書き残しておくと、引き継ぐ人が困りません。無料・登録不要です。
賃貸物件の情報を書き残すまとめ#
- 賃料の振込先を最優先で決める。故人の口座は凍結される
- 分割前の賃料は各相続人が法定相続分で取得(全員の合意で精算も可)
- 青色申告の承認申請を忘れずに。期限は死亡日で変わる
- 敷金の返還義務も引き継ぐ。債務控除の対象
- 貸家建付地の評価減と貸付事業用宅地等の特例(200㎡・50%、3年縛りあり)
- 共有は避ける。判断が止まり、収益が落ちる
よくある質問
- Q. 遺産分割が終わるまで、家賃は誰が受け取ればいいですか?
- 法律上は各相続人が法定相続分に応じて取得します。実務上は、代表者の口座でいったん受け取り、分割時に精算する扱いにすることも多いです。その場合は、相続人全員の合意を遺産分割協議書に明記しておいてください。確定申告の方法も、あらかじめ税理士に確認しておくと安全です。
- Q. 賃借人に通知は必要ですか?
- 法律上、賃貸人の地位は当然に相続人へ移るため、通知がなくても契約は継続します。ただし賃料の振込先が変わるので、実務上は必ず通知してください。契約書の名義変更は必須ではありませんが、次の更新時に整えるのが一般的です。
- Q. 青色申告の承認申請を忘れました。
- 期限を過ぎると、その年は白色申告になります。青色申告特別控除も専従者給与も使えず、赤字の繰越もできません。翌年分から青色申告をするには、その年の3月15日までに申請してください。損失は取り返せないので、期限管理が重要です。
- Q. 相続対策でアパートを建てるのは有効ですか?
- 評価額が下がる効果はありますが、空室・家賃下落・修繕・金利のリスクを負います。また、小規模宅地等の特例には3年縛りがあり、直前の対策は効きません。過度に節税だけを目的とした取引が否認された裁判例もあります。事業として成り立つかを まず検討してください。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務に関する助言ではありません。 制度は改正されることがあります。実際のご判断にあたっては、国税庁の最新情報をご確認いただくか、 税理士等の専門家にご相談ください。