実家の農地・山林を相続したら|届出の期限と、手放し方
農地を相続したら、相続登記とは別に農業委員会への届出(10か月以内)が必要です。山林も市町村長への届出(90日以内)が要ります。売買や転用の許可、納税猶予、境界不明の問題、そして手放す方法までまとめました。
約5分で読めます・2026-09-06 公開
この記事の要点
- 農地を相続したら、相続登記とは別に農業委員会への届出が必要です。期限は10か月以内で、怠ると10万円以下の過料の対象です。
- 山林を相続した場合は、市町村長への届出が90日以内に必要です。
- 相続によって農地を取得すること自体に農地法の許可は不要ですが、売買や転用には許可が要ります。
- 耕作できない農地は、届出の際にその旨を伝えておくと、農地中間管理機構などを通じて借り手や買い手を探してもらえることがあります。
- 放置すると遊休農地として利用の意向調査を受け、雑草や病害虫で近隣とのトラブルにもなります。
実家を相続すると、自宅の敷地だけでなく、田畑や山林が一緒についてくることがあります。地方では、むしろこちらのほうが面積が大きいこともあります。
農地と山林は、宅地とはまったくルールが違います。相続登記とは別に届出が必要で、しかも期限があります。見落としやすい部分なので、順に整理します。
まず、何を持っているか確認する#
農地や山林は、固定資産税がかからない、または非常に低額なことがあり、納税通知書に載らない、載っていても気づかないことがあります。
- 名寄帳 — 市区町村で取得。その市区町村内の所有不動産が一覧で分かります
- 登記事項証明書 — 地目(田・畑・山林・原野)を確認
- 農地基本台帳 — 農業委員会で、農地の状況を確認できます
- 森林簿・森林計画図 — 都道府県で、山林の概要を確認できます
複数の市区町村にまたがっている場合は、それぞれで名寄帳を取る必要があります。
農地を相続したとき#
① 相続登記(3年以内)
宅地と同じく、相続登記が必要です。取得を知った日から3年以内。
相続による取得の場合、農地法3条の許可は不要です。売買や贈与で農地を取得するには許可が必要ですが、相続は例外とされています。
② 農業委員会への届出(10か月以内)
許可は不要でも、届出は必要です。相続で農地を取得したことを知った時から10か月以内に、農地のある市区町村の農業委員会へ届け出ます。
- 届出書に、登記事項証明書などを添えて提出します
- 手数料はかかりません
- 怠ると10万円以下の過料の対象です
- 届出の際、「農地を売りたい・貸したい」という意向をあわせて伝えられます
③ 農地はそのままでは売りにくい
農地の売買には制約があります。
| やりたいこと | 必要な手続き |
|---|---|
| 農地のまま、農業をする人に売る・貸す | 農地法3条の許可(買い手側に要件があります) |
| 自分で農地以外に転用する | 農地法4条の許可 |
| 転用する人に売る | 農地法5条の許可 |
市街化区域内の農地は、転用が「許可」ではなく「届出」で済みます。ここが大きな違いです。
市街化調整区域の農地は転用のハードルが高く、実質的に農業をする人にしか売れないことが多いのが実情です。買い手を探すのに時間がかかります。
④ 相続税の評価と納税猶予
農地の相続税評価額は、区分によって計算方法が変わります(純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地)。
市街地農地は宅地並みの評価になることがあり、耕作しているだけなのに相続税の負担が重くなる、という事態が起こります。
これに対して、農地の納税猶予という制度があります。相続人が農業を継続する場合、一定の相続税の納付が猶予され、要件を満たせば最終的に免除されます。
山林を相続したとき#
① 市町村長への届出(90日以内)
森林法にもとづき、森林の土地の所有者となった旨の届出が必要です。土地の所有者となった日から90日以内に、その森林のある市町村長へ届け出ます。
地域森林計画の対象となっている森林が対象です。ご自身の山林が該当するかは、市町村の林務担当課で確認できます。
② 山林特有の難しさ
- 境界が分からない — 山林は境界標がないことが多く、確定に時間と費用がかかります
- 現地にたどり着けない — 道がない、どこが自分の山か分からない
- 買い手が見つかりにくい — 需要が限られます
- 管理責任は残る — 倒木が道路や隣地に被害を及ぼせば、所有者の責任が問われ得ます
境界が分からないことは、後で述べる相続土地国庫帰属制度が使えない理由にもなります。まず森林組合や市町村に相談し、現況を把握することから始めてください。
手放したい場合#
- 農業委員会・農地中間管理機構に相談する(農地) — 借り手や買い手のあっせん
- 森林組合に相談する(山林) — 管理の受託や、集約化の取り組みがある地域も
- 隣接地の所有者に打診する — 農地・山林ともに、隣の土地の所有者が最も現実的な買い手です
- 空き家バンクに、土地も含めて登録する
- 相続土地国庫帰属制度を検討する
相続土地国庫帰属制度
相続で取得した土地を国に引き取ってもらう制度です。農地・山林も対象になり得ます。
ただし、次のような土地は対象外です。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲に争いがある土地
- 土壌汚染がある土地
- 崖地など、管理に過分の費用や労力がかかる土地
山林でつまずきやすいのが「境界が明らかでない」という要件です。まず境界の状況を確認してください。
費用は、審査手数料が土地1筆あたり14,000円、承認された場合の負担金が必要です(種目と面積によって算定されます)。
相続放棄という選択#
価値のない土地だけを理由に相続放棄を考える方もいますが、放棄は財産を選べません。預貯金や自宅も含めて、すべてを放棄することになります。
実家にどんな土地があるか、まず一覧にするところから。無料・登録不要で、入力内容は端末内にのみ保存されます。
実家の情報を書き出すまとめ#
- 名寄帳で、持っている土地を漏れなく確認する
- 農地は農業委員会に10か月以内の届出。過料の対象
- 山林は市町村長に90日以内の届出
- 相続による取得に農地法の許可は不要。ただし売買・転用には許可が要る
- 納税猶予は継続が条件。途中でやめると利子税つきで納付
- 手放すなら、隣接地の所有者への打診が最も現実的
- 国庫帰属制度は境界が明らかであることが壁になりやすい
よくある質問
- Q. 農業をするつもりがないのに、農地を相続してしまいました。
- 相続による取得自体に農地法の許可は不要なので、そのまま相続できます。ただし10か月以内に農業委員会への届出が必要です。届出の際に「自分では耕作できない」と伝えておくと、農地中間管理機構などを通じて借り手や買い手を探してもらえることがあります。
- Q. 耕作せずに放置するとどうなりますか?
- 遊休農地として農業委員会から利用の意向調査を受けることがあります。周辺への影響(雑草、病害虫)から近隣トラブルにもなります。また、農地としての価値も下がっていきます。耕作できないなら、貸すか手放すかを早めに検討してください。
- Q. 山林の場所が分かりません。
- 登記事項証明書の地番をもとに、法務局の公図、市町村の林務担当課、地域の森林組合に相談してください。森林簿や森林計画図で概要が分かることがあります。それでも現地の特定が難しい場合は、地元の測量業者や森林組合に案内を依頼する方法があります。
- Q. 農地や山林も相続税がかかりますか?
- かかります。農地は純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の区分で評価方法が異なり、市街地農地は宅地並みの評価になることがあります。山林も同様に区分があります。評価額が大きくなりそうな場合は、農地の納税猶予の適用可否も含めて税理士にご相談ください。
「ななえの手帖」でできること
読んだ内容を、そのまま形にできます。登録不要・無料。入力した内容はお使いの端末内にのみ保存され、 外部サーバには送信されません。
この記事を送る
ご家族や、気になっている方に。読んでほしい人に送っておくと、話を切り出しやすくなります。
あわせて読みたい
一次情報の確認先
この記事に出てくる制度や数値は、次の機関が公表している情報にもとづいています。 制度は改正されることがあるため、実際の手続きの前に最新の内容をご確認ください。
登録会員(無料)
会員特典「手帖の道具箱」をお届けします
読んで終わりにせず、手を動かすところまで。無料の登録会員になると、印刷して書き込める4枚をお届けします。
- もしもの頁 冊子版もしもの時にご家族が行う手続きを、期限順に並べた一冊。連絡先の記入欄つき。
- 終活の棚卸しシート財産と契約を一年に一度書き出すためのシート。去年からの変化を追えます。
- 贈与契約書のひな形生前贈与の「言った・言わない」を残さないための契約書。記入して2通作れます。
- デジタル遺品チェックリストスマホ・アカウント・サブスクの棚卸しと、故人アカウント管理人の設定手順。
あわせて、年に一度「そろそろ手帖の更新を」とお声がけします。 財産も家族の連絡先も制度も一年で変わるので、思い出すきっかけがあるだけで手帖は生き続けます。
このサイトのエンディングノートと相続税の概算計算は、登録なしで無料でお使いいただけます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務に関する助言ではありません。 制度は改正されることがあります。実際のご判断にあたっては、国税庁の最新情報をご確認いただくか、 税理士等の専門家にご相談ください。