家族信託・認知症への備え

認知症の親の家を売るには|居住用不動産の処分許可と、その前にできること

親の判断能力が低下すると、家族でも実家を売れなくなります。成年後見人を立てて家庭裁判所の許可を得る手順、許可が下りる条件と下りない場合、かかる期間と費用、そして判断能力があるうちに打てる手を、時間の順に整理しました。

約4分で読めます・2026-09-06 公開

この記事の要点

  • 不動産の売買契約には本人の意思能力が必要です。判断能力が失われると、家族が代わりに売ることはできません。
  • 売るには成年後見人を選任し、居住用不動産であれば家庭裁判所の許可を得る必要があります。
  • 許可されるかどうかは、売る必要性と本人の利益で判断されます。施設の入所費用や生活費に充てるといった理由が必要で、相続税対策のための売却は認められません。
  • 後見の申立てから売却の許可まで、あわせて3か月以上かかることを見込んでおいてください。
  • 判断能力があるうちなら、本人が売る、家族信託で受託者に売却権限を渡す、任意後見で扱いを決めておく、といった選択肢があります。

「施設の費用を出すために実家を売りたい。でも母は認知症で、話ができない」。この相談は非常に多く、そしてほとんどの場合、思っていたより時間がかかります。

まず前提から。不動産の売買契約には、本人に意思能力が必要です。判断能力が失われた状態で結んだ契約は無効になります。子が代わりにサインすることも、委任状を書いてもらうこともできません。

判断能力の段階で、打てる手が変わる#

本人の状態売る方法必要な時間
判断能力がある本人が売る。子が段取りを手伝う通常の売却と同じ
判断能力がある(先々に備える)家族信託で受託者に売却権限を渡しておく契約に1〜2か月
判断能力がある(先々に備える)任意後見契約で扱いを決めておく契約に1か月程度
判断能力が低下した成年後見人を立て、家庭裁判所の許可を得る3か月以上

上の3つは、判断能力があるうちにしかできません。診断を受けてからでは、いちばん下の道しか残りません。

成年後見を使って売る手順#

  1. 成年後見開始の申立て — 家庭裁判所へ。診断書や財産目録が必要です(成年後見の申立て)
  2. 後見人の選任 — 申立てから1〜2か月。家族が選ばれるとは限りません
  3. 売却の準備 — 後見人が査定を取り、買主を探します
  4. 居住用不動産処分の許可を申し立てる — 売買契約の内容を示して家庭裁判所へ
  5. 許可の審判 — 2週間〜1か月程度
  6. 売買契約・決済 — 許可が出てから契約するのが原則です

「居住用不動産」の範囲#

家庭裁判所の許可が必要なのは居住用の不動産です。ここは広めに考えられています。

  • 現に住んでいる家 — もちろん対象
  • 以前住んでいて、施設に入る前まで生活の本拠だった家 — 対象になります
  • 将来、退院や退所後に戻る可能性がある家 — 対象になり得ます
  • もともと誰も住んでいない別荘や、貸している物件 — 通常は対象外

「施設に入ったから、もう居住用ではない」とはなりません。判断に迷うものは、許可の申立てをしておくほうが安全です。許可なく売ると、その処分は無効とされるおそれがあります。

許可が下りる条件#

家庭裁判所が見るのは、本人にとって必要で、本人の利益になるかです。

判断されるところ具体的に
売る必要性施設の入所費用や生活費、医療費に充てる必要があるか。他に資金はないか
本人の生活への影響帰る場所がなくなることをどう考えるか。施設で安定しているか
価格の妥当性査定書などで、相場から離れていないか
本人の意向推し量れる範囲で、本人が売却を望んでいたか

逆に、認められにくいのは次のような理由です。

  • 相続税対策のため — 本人の利益ではなく、相続人の利益です
  • 空き家の管理が大変だから — 家族の都合であり、本人の必要性ではありません
  • 子の住宅資金にしたい — 本人の財産を家族のために使うことはできません

かかる時間と費用#

段階期間費用
書類集めと診断書2週間〜1か月診断書 数千円〜1万円
後見開始の申立てから選任1〜2か月実費1万円弱(鑑定があれば5万〜10万円)
売却の準備1〜3か月仲介手数料は成約時
処分許可の申立てから審判2週間〜1か月収入印紙800円程度

合計で3か月から半年程度を見込んでください。施設の入所が決まってから動き始めると、費用の支払いに間に合わないことがあります。

判断能力があるうちにできること#

「まだ元気だから」と先送りにされがちですが、打てる手があるのはこの時期だけです。

  1. 本人と話して、実家をどうしたいかを聞いておく — 売る・残す・誰に引き継ぐか
  2. 名義と権利関係を確認する — 祖父名義のままなら、まず相続登記から
  3. 家族信託を検討する — 受託者に売却権限を渡しておけば、認知症になっても許可なしで売れます(家族信託の始め方)
  4. 任意後見で扱いを決めておく — 居住用不動産を売ってよいかを契約に書いておく
  5. 元気なうちに売ってしまう — 住み替えを兼ねるなら、これが最も単純です

実家の名義や権利関係、本人の希望を書き出しておくところから始められます。登録不要・無料です。

実家のことを書き出す

まとめ#

  • 判断能力が失われると、家族でも売れません。委任状も使えません
  • 売るには成年後見人の選任と、居住用なら家庭裁判所の許可が必要
  • 許可の基準は「本人にとって必要か」。相続税対策のための売却は認められません
  • 合計で3か月から半年。施設の入所が決まってからでは間に合わないことがある
  • 判断能力があるうちなら、本人が売る・家族信託・任意後見という道がある

よくある質問

Q. 委任状を書いてもらえば、子が売れませんか?
委任状を作成する時点で本人に意思能力が必要です。判断能力が失われた後に作った委任状は無効で、それを使った売買契約も無効になります。司法書士や不動産会社は本人の意思確認を行うため、実務上も進みません。
Q. 軽い物忘れの段階なら売れますか?
程度によります。売買の意味を理解し、自分の意思で決められる状態であれば売却は可能です。ただし司法書士による意思確認で問題があると判断されると、登記手続きが進みません。診断を受けている場合は、早めに司法書士や不動産会社に相談してください。
Q. 空き家のまま置いておくと、どうなりますか?
固定資産税と管理の負担が続きます。管理不全空家等に指定されて勧告を受けると、住宅用地の特例が外れて土地の固定資産税が上がります。また、判断能力が低下した後は売却も贈与もできなくなるため、選択肢が減っていきます。
Q. 家族信託をしていれば、本当に許可なしで売れますか?
信託契約で受託者に売却の権限を与えていれば、受託者の判断で売却できます。家庭裁判所の許可は不要です。ただし、受託者は受益者のために職務を行う義務を負うため、本人の利益に反する売却はできません。契約の内容次第なので、組成時に専門家へご確認ください。

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