遺言書の書き方

遺言が無効になるケース|方式の不備と、遺言能力が争われるとき

せっかく書いた遺言が使えなくなる原因を、方式の不備・遺言能力・その他の理由に分けて整理しました。日付の書き方、押印、共同遺言の禁止、公正証書で証人になれない人、認知症と遺言能力の関係、そして一部だけ無効になる場合の扱いまで解説します。

約5分で読めます・2026-09-06 公開

この記事の要点

  • 自筆証書遺言は、全文自書・日付・氏名・押印の4要件のうち1つでも欠けると無効です。財産目録だけは例外で、パソコンで作成できます。
  • 日付は年月日を特定できる書き方が必要です。吉日と書いたものは無効とされています。
  • 2人以上が同じ証書で遺言をすることは法律で禁止されており、夫婦であっても無効です。
  • 認知症の診断があるだけで一律に無効になるわけではありませんが、遺言能力が争われやすくなります。診療記録や当時の言動が判断材料になります。
  • 公正証書遺言では、推定相続人や受遺者、その配偶者と直系血族は証人になれません。欠格者が証人になっていると無効を主張される余地があります。

遺言は、書いた本人が亡くなってから効力を持ちます。間違いを本人が直せないという点で、他の書面とは決定的に違います。

だからこそ、方式は厳格です。ここでは何が原因で無効になるのかを、書く前に確認できる形で整理します。

① 方式の不備|自筆証書遺言#

最も多い原因です。自筆証書遺言には4つの要件があり、1つでも欠けると無効になります。

要件よくある失敗
全文を自分で書くパソコンで作った、家族が代筆した、録音した
日付を書く「令和8年9月吉日」と書いた、日付がない
氏名を書く姓だけ、通称だけ(本人と分かれば有効な場合もありますが危険です)
押印する押していない(指印でも有効とした判例はありますが、実印か認印を押すのが確実です)

財産目録だけは例外です。パソコンで作った一覧や通帳のコピーを添付できますが、その場合は各ページに署名と押印が必要です(両面に記載があれば両面とも)。

訂正の方法を誤った場合

自筆証書の訂正には厳格な作法があります。変更する場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更の場所に押印する。この作法を欠くと、その訂正はなかったものとして扱われます。

訂正が多い遺言は、それ自体が争いの火種になります。書き直すほうが確実です(遺言書の書き直しと撤回)。

② 共同遺言の禁止#

2人以上が同じ証書で遺言をすることは、法律で禁止されています。夫婦であっても、同じ紙に2人分を書けば無効です。

「夫婦で1通にまとめたい」という相談は多いのですが、それぞれ別々に作成してください。内容を揃えたい場合は、同じ日に別々の遺言書を作る形にします。

③ 遺言能力#

遺言をするには、その内容と結果を理解できる能力が必要です。15歳以上であれば単独でできますが、判断能力を欠く状態で作られた遺言は無効とされます。

争いになったとき、判断材料になるのは次のようなものです。

  • 診療記録・介護記録 — 当時の認知機能の評価(長谷川式などの検査結果)
  • 遺言の内容の複雑さ — 単純な内容ほど能力が認められやすい傾向があります
  • 作成時の状況 — 誰が同席していたか、本人がどう説明したか
  • それまでの言動との一貫性 — 従来言っていたことと大きく違うと疑われます

心配がある場合の備えとして、公正証書で作る(公証人が意思と能力を確認します)、作成日に近い時期の診断書を残す、作成の様子を録画する、といった方法があります。

④ 公正証書での証人の問題#

公正証書遺言は方式の不備がほぼ起きませんが、証人には要件があります。次の人は証人になれません。

  • 未成年者
  • 推定相続人・受遺者と、その配偶者・直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記や使用人

財産を受け取る人やその家族が証人になっていると、無効を主張される余地が生まれます。証人が見つからない場合、公証役場で紹介してもらえます(有料)。

⑤ そのほかの原因#

原因内容
内容が特定できない「家は長男に」だけでは、どの不動産か分からず手続きに使えないことがあります
詐欺・強迫騙されたり脅されたりして書いた遺言は取り消せます
公序良俗違反著しく社会的に相当でない内容は無効とされることがあります
偽造・変造相続人が偽造や変造をすると、その人は相続人の資格を失います(相続欠格)

一部だけ無効になることもあります#

遺言全体が無効になるとは限りません。特定の条項だけが無効になり、残りは有効なままということもあります。

  • 存在しない財産を指定した — その部分だけ効力がない
  • 受遺者が先に亡くなっていた — その部分は効力を生じません。予備の指定があればそちらへ
  • 一部の訂正が方式違反 — 訂正前の記載が生きることがあります

無効を防ぐために#

  1. 公正証書で作る — 方式の不備はほぼ起きません。費用はかかりますが最も確実です
  2. 自筆なら法務局の保管制度を使う — 預ける際に外形的な要件は確認してもらえます(内容の有効性までは確認されません)
  3. 財産を特定して書く — 不動産は登記事項証明書のとおりに、預金は金融機関名と口座番号まで
  4. 予備的遺言を入れる — 受遺者が先に亡くなった場合の指定
  5. 元気なうちに書く — 遺言能力が争われる余地を小さくします

遺言を書く前に、まず何がどこにあるかを整理しておくと、財産の特定が正確になります。無料・登録不要です。

財産を書き出す

まとめ#

  • 自筆証書は全文自書・日付・氏名・押印の4要件。1つ欠けると無効
  • 「吉日」は無効。年月日を特定できる書き方に
  • 2人で1通は禁止。夫婦でも別々に作る
  • 認知症の診断イコール無効ではないが、争われやすくなる
  • 公正証書では、受け取る人やその家族は証人になれません

よくある質問

Q. パソコンで作った遺言書は使えませんか?
自筆証書遺言では、本文をパソコンで作成すると無効です。財産目録の部分だけは例外で、パソコンで作った一覧や通帳のコピーを添付できますが、各ページに署名と押印が必要です。全文をパソコンで作りたい場合は、公正証書遺言を選んでください。
Q. 押印を忘れていました。有効ですか?
押印は要件なので、原則として無効です。花押を書いたケースで押印にあたらないとされた判例があり、指印を有効とした判例もありますが、いずれも争いになった末の判断です。気づいた時点で書き直してください。
Q. 遺言が無効かどうか、誰が決めるのですか?
相続人の間で合意できなければ、最終的には裁判所です。まず遺産分割調停で話し合い、遺言の有効性そのものを争う場合は遺言無効確認の訴えを起こすことになります。時間も費用もかかるため、争いになりそうな段階で弁護士へご相談ください。
Q. 遺言が無効になったら、財産はどう分けますか?
遺言がなかったものとして、相続人全員で遺産分割協議を行います。まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判になります。なお、一部だけが無効の場合は、有効な部分は遺言のとおりに、無効な部分だけを協議で決めます。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務に関する助言ではありません。 制度は改正されることがあります。実際のご判断にあたっては、国税庁の最新情報をご確認いただくか、 税理士等の専門家にご相談ください。