家族信託の受託者になったら|義務と、毎年やること
受託者を頼まれた側が引き受ける前に知っておきたいことをまとめました。分別管理・帳簿の作成・年1回の報告といった義務、信託口口座の扱い、税務署へ出す信託の計算書、受託者が先に亡くなった場合の備え、そして断るという選択まで解説します。
約4分で読めます・2026-09-06 公開
この記事の要点
- 受託者は信託財産を自分の財産と分けて管理する義務を負います。信託口口座を使い、個人の口座と混ぜないことが基本です。
- 信託財産の帳簿を作り、年に1回、財産の状況を受益者に報告する義務があります。
- 信託財産から生じる収益が年3万円を超える場合などには、翌年1月31日までに信託の計算書を税務署へ提出します。
- 受託者は受益者の利益のために職務を行う義務があり、信託財産を自分のために使うことはできません。
- 受託者が先に亡くなる、判断能力を失うといった事態に備え、契約で後継受託者を決めておきます。
親から「家族信託をしたいので、お前が受託者になってくれ」と頼まれた。この記事は、そう言われた引き受ける側のために書いています。
受託者は、単に名義を預かるだけの役ではありません。法律上の義務を負い、それが何十年も続くことがあります。引き受ける前に、何を求められるのかを知っておいてください。
負う義務#
| 義務 | 具体的にやること |
|---|---|
| 善管注意義務 | 注意深く財産を管理する。適当な管理は責任を問われます |
| 忠実義務 | 受益者の利益のために職務を行う。自分のために使えません |
| 分別管理義務 | 信託財産と自分の財産を分けて管理する |
| 帳簿の作成・報告義務 | 帳簿を作り、年1回受益者に報告する |
| 公平義務 | 受益者が複数いる場合、公平に扱う |
信託口口座#
分別管理のために、金融機関に開く専用の口座が信託口口座です。
- 受託者個人の財産とは切り離される — 受託者が破産しても差し押さえられません
- 受託者が亡くなっても凍結されない — 個人名義の口座だと、受託者の相続手続きに巻き込まれます
- 扱う金融機関が限られる — 契約の前に確認してください。開設に数十万円の手数料がかかる例もあります
信託口口座を開けない場合、「受託者名義の別口座」で代用することがありますが、上の2つの利点が失われます。どちらで進めるかは、信託の設計そのものに関わります。
毎年やること#
- 帳簿をつける — 入出金の記録。信託財産の収支を分けて記録します
- 財産状況の報告書を作る — 年1回、受益者へ。決まった書式はありません
- 信託財産目録を作る — 年1回。信託帳簿にもとづいて作成します
- 書類を保存する — 帳簿は作成から10年間の保存が求められます
税務署への提出
見落とされやすいのがここです。信託財産から生じる収益が年3万円を超える場合などには、信託の計算書と合計表を、翌年1月31日までに税務署へ提出します。
- 賃貸不動産を信託している場合、家賃収入があるので該当することが多いです
- 自宅と預金だけで収益がないなら、提出は不要なことが多い
- 受益者が本人(委託者と同じ)の間は、贈与税はかかりません。実質的な持ち主が変わらないためです
やってはいけないこと#
- 信託財産を自分のために使う — 一時的な立て替えのつもりでも義務違反です
- 信託財産を自分に売る、自分に貸す — 利益が相反します。原則できません
- 報告をしない — 受益者や他の家族の不信を招きます。揉める典型です
- 契約の範囲を超えた処分 — 契約書に書かれていない財産の売却などはできません
受託者が続けられなくなったら#
信託は何十年も続くことがあります。受託者のほうが先に亡くなる、認知症になるという事態は現実に起こります。
- 後継受託者を契約で定めておく — これがないと、信託が止まります
- 受託者が1年間不在だと、信託は終了します — 空白を作らない設計が必要です
- 辞任するには — 契約に定めがあればその方法で。なければ委託者と受益者の同意、または家庭裁判所の許可が必要です
断るという選択#
引き受けたくない、続けられそうにないと感じるなら、契約の前に断ってください。始まってから辞めるほうが、はるかに難しくなります。
断るのが心苦しい場合、次のような代案があります。
- 別のきょうだいに受託者を頼む — 自分は監督する立場(信託監督人)に回る
- 信託する財産を絞る — 自宅だけ、金銭だけ、と範囲を小さくする
- 任意後見で代える — 財産の処分より、施設や医療の手続きが心配なら、こちらが向きます
制度の選び方は家族信託・成年後見・遺言の使い分けにまとめています。
信託する財産を決める前に、まず何がどこにあるかを書き出しておくと、話し合いが進みます。
財産を書き出すまとめ#
- 受託者は分別管理・帳簿・年1回の報告の義務を負う。何十年も続くことがある
- 信託口口座を使う。扱う金融機関が限られるので契約前に確認
- 収益が年3万円を超えるなら、信託の計算書を翌年1月31日までに税務署へ
- 信託した不動産の損失は損益通算できません
- 後継受託者を決めておく。引き受けられないなら、始まる前に断る
よくある質問
- Q. 受託者は報酬をもらえますか?
- 契約で定めれば受け取れます。家族が受託者になる場合は無報酬とすることが多いですが、長期にわたる負担を考えて報酬を定めることもできます。なお、報酬を得て業として反復継続的に受託するには信託業の免許が必要なため、専門家が受託者になることは基本的にできません。
- Q. 帳簿は決まった書式がありますか?
- 法律上の決まった書式はありません。信託財産の収支と残高が分かる形であれば、市販の会計ソフトや表計算ソフトでもかまいません。ただし、後から見て説明できる記録であることが必要です。組成を頼んだ専門家に、ひな形をもらっておくと確実です。
- Q. 受託者が複数いてもよいですか?
- 複数を置くこともできます。ただし、原則として職務は共同で行うことになり、意思決定に時間がかかります。実務では受託者を1人にして、後継受託者を定めておく形が一般的です。
- Q. 受託者になると、自分の相続税に影響しますか?
- 受託者であること自体は、受託者の相続財産に影響しません。信託財産は受託者の固有の財産とは別のものだからです。相続税の対象になるのは受益者の持つ受益権であり、受託者ではありません。
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- 法務省相続・遺言・登記の制度
- 厚生労働省健康保険・介護保険・成年後見
- e-Gov 法令検索民法・相続税法などの条文
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務に関する助言ではありません。 制度は改正されることがあります。実際のご判断にあたっては、国税庁の最新情報をご確認いただくか、 税理士等の専門家にご相談ください。